消化器疾患

 消化器は食物を摂取して身体に必要な栄養を利用し、利用しなかったものを排泄する働きをします。食道、胃十二指腸、大腸などの病気を説明します。

 

☆食道疾患

〇逆流性食道炎

 遅い時間に満腹になるまで食べて胃の中に食物がある状態に寝る習慣を続けていると、食道と胃の境にある下部食道括約筋が緩んでしまい、胃液や食物が食道内に逆流し、炎症を起こすようになってしまいます。これが逆流性食道炎です。最初は夜中に胸やけが出現しますが、進行してくると昼間も症状が起こるようになります。食道・胃内視鏡検査では下部食道に縦走する糜爛(びらん)や潰瘍を確認できます。食道の壁は皮膚と同じ扁平上皮細胞で酸に弱いので、胃酸の逆流を繰り返していると食道炎を起こしてしまい、年余のうちに食道上皮細胞の遺伝子に変化が起きて食道がんの原因になってしまいます。
 逆流性食道炎の予防のためには夕食は早めに済ませ、食後1~2時間経ってから横になる習慣を身につけることが大切です。また胃の出口(幽門部)が右にあるため、寝付くまで5分くらいは右側を下にしていると胃の内容物が十二指腸に流れ出て胃の中が空になるため、症状が起こらなくなります。
 夜寝ているときに胃酸が食道に逆流して逆流性食道炎を起こさないために、胃酸分泌抑制薬としてネキシウム、パリエット、タケプロンなどのプロトンポンプ阻害薬やガスターなどのヒスタミンH2受容体拮抗薬を服用します。これらの薬を朝や昼に服用するとその時点から胃酸が分泌されなくなります。胃酸は蛋白質を消化する、殺菌をするという作用がありますから、朝に服用すると朝食の消化・吸収、殺菌作用が出来なくなくなってしまいますから、就寝前に服用するのが理に叶っていると思います。

〇食道がん

 2009年の食道がんによる年間死亡数は1万人以上でした。上部食道がんは煙草、強いアルコール、熱いお茶や食べ物、刺激物などが誘因です。食事がしみたり、固形物は飲み込み難いけれど、流動物は飲み込めたりというのは食道がんに起こりやすい症状です。このような症状が起きた時はなるべく早く食道・胃内視鏡検査を受けてください。

☆胃疾患

〇急性胃炎

 何らかの原因で突然腹痛や嘔吐などの腹部症状が現れ、胃内視鏡検査で糜爛(びらん)、浮腫、発赤、出血などの所見が見られる急性胃粘膜障害の一つです。原因としては精神的ストレス、非ステロイド性消炎鎮痛薬などの薬剤、アルコールなどがあります。原因をなくすことが治療の原則で、ストレス解消、原因薬剤の中止などが第一です。又、唐辛子(とうがらし)、ワサビ、胡椒(こしょう)、キムチ、タバスコ、濃い塩分などの刺激物を制限したり、アルコールや煙草を禁止したりします。

〇ヘリコバクターピロリ菌

 1983にWarren & Marshallが胃粘膜より,ヘリコバクターピロリ(Hピロリ)菌を分離培養しました。最初は胃の中にそのような細菌が生息しているとは誰も信じませんでしたが、その後、胃酸が多い胃壁でアンモニアを分泌して胃酸を中和しながら生きているHピロリ菌が胃壁に対する攻撃因子として注目されるようになりました。Hピロリ菌が慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、ひいては胃がんを引き起こすことが明らかになってきたのです。
 ピロリ菌は便から排泄されて経口感染します。我が国は歴史的に肥しを使う文化でしたから、井戸水や川の水を飲んでいた中高年の人たちはHピロリ菌が陽性で胃がんになる人も多いのです。生まれた時から水道水だけで育った若い人たちはピロリ菌に感染していないため、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんになるリスクが少ないと考えられます。
Hピロリ菌の診断は胃内視鏡時の検査、血液中のHピロリ菌抗体、呼気中のアンモニア濃度(ウレアーゼ試験)、便中のHピロリ菌検出などで行います。
 除菌治療として、合成ペニシリンとマクロライド系の抗生物質の2種類の抗生物質と、胃酸分泌抑制薬のプロトンポンプ阻害薬という3種類の薬剤を1週間服用することで、胃に生息しているHピロリ菌を殺してしまうのです。ピロリ菌の除菌が成功すると、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどの予防に繋がります。3か月から6か月後の検査で除菌が失敗したと分かった場合は1種類の薬を変えて2回目の除菌をします。

〇慢性胃炎

 若年者の慢性胃炎は胃酸分泌が過剰な場合が多く、高齢者になると胃粘膜が萎縮し、胃酸分泌も減少してしまう萎縮性胃炎が増えてきます。ピロリ菌抗体が陽性で、胃の内視鏡検査を行い、慢性胃炎があることが確認されれば、健康保険でピロリ菌の除菌が行えるようになりました。

〇胃潰瘍・十二指腸潰瘍

 胃または十二指腸粘膜の粘膜下層またはそれ以上に深くまで組織が欠損してしまう病態で、Hピロリ菌感染、非ステロイド性消炎鎮痛薬、アルコール、ストレスなどが主な成因と考えられています。胃がんがあるかないかを検査するために潰瘍周辺粘膜から内視鏡直視下で生検を行い、病理組織診断をします。良性な潰瘍でHピロリ菌感染があれば、除菌を考慮します。Hピロリ菌の除菌により、大多数の人は長い間悩んでいた胸やけ、胃痛、胃もたれなどの不快な症状が無くなります。繰り返していた潰瘍症状がなくなり、胃がんの危険性も少なくなるのでメリットは充分と考えられます。

〇胃がん

 胃がんは手術で治る人も多く、年間死亡者数は約3万人でほぼ一定しているようです。早期がんが粘膜に限局している場合は、内視鏡で摘出する方法(内視鏡的粘膜切除術)も行われるようになってきました。この手術は侵襲も少なく、術後の回復も目覚ましいものです。
 胃がんは初期には症状がないのが特徴ですから、住民検診、職場検診などを上手に利用して、早期発見・早期治療に努めて下さい。また、軽い症状でも積極的に検査を受けるようにして下さい。実際にその様にして、早期胃がんを手術して健康を保っている人が増えてきています。

☆腸疾患

〇急性腸炎

 感染性腸炎は細菌、真菌、寄生虫、ウイルスなどの病原体が腸に感染することによって起こります。通常、急激に下痢、腹痛、悪心・嘔吐、発熱などで発症しますが、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症(O-157)などは血便になったりします。
 細菌性感染症の場合は、抗菌薬を主体に治療します。下痢・嘔吐は生体の防御反応ですから、安易に下痢を止めずに初期には抗生物質・抗菌剤、粘膜保護薬などを用います。少し飲食をしても嘔吐・下痢をしてしまう場合は消化管を休めるために絶食して、脱水の予防と治療のために点滴を行います。

〇ノロウイルス感染症

 ノロウイルスを含んでいる生牡蠣などを食べて1~3日経ってから、突然激しい吐き気と多量の嘔吐、水様性の激しい下痢が起こります。吐物、便もウイルスを含んでいるために感染源になりますから、清拭、消毒は感染拡大予防のために重要です。家族に同じ症状の人がいて感染したという場合は清拭、消毒が不完全だったためです。このウイルスは熱にも寒さにも強く、調理をする場合に中心温度75℃、3分間の加熱で死にますが、中途半端な加熱では生きています。厄介なことに、冷蔵庫内でも生きているため、買ってきて冷蔵庫に入れてある生牡蠣に触れたもの、生牡蠣を調理したあと流水できれいに洗っていない包丁や俎板、一緒に調理した他の野菜サラダなどの食材からも感染します。どの牡蠣がウイルスに汚染されているかは外見では分かりませんから、生牡蠣を食べる時は、ノロウイルスに感染するかもしれないという覚悟が必要です。フライにするときにもウイルスが死ぬまで加熱していない場合は感染する恐れはあります。
 発病してしまった人の嘔吐や下痢は病原体を体外に排泄させる生体防御反応ですから、抗菌薬、粘膜保護薬、乳酸菌製剤などを使います。ウイルスを殺す薬はありませんが、一緒に悪さをしている細菌を殺すと症状は早く良くなるようです。感染症ですからお腹を温めてはいけません。脱水状態では点滴すると体力回復が早くなります。
 吐物、便、排便後の手指などは消毒をしないと感染が広がってしまいます。消毒用のアルコールなどを常備しておくことは必要です。

〇過敏性腸症候群

 過敏性腸症候群は腹痛や腹部不快感などの下腹部を中心とした腹部症状や、便秘あるいは下痢などの便通異常を訴えるけれど、色々検査をしても症状の原因となる器質的疾患を認めない機能性疾患です。
腹痛あるいは腹部不快感が、過去12ヶ月の間に断続的に12週間以上あり、排便により軽快する、排便回数の変化で始まる、便性状の変化で始まる、の3項目の内2項目以上の特徴を示す場合に過敏性腸症候群と診断します。便秘型、下痢型、便秘と下痢を繰り返す交代型などがあります。
 成因としては大腸を中心とした消化管運動の異常、精神的ストレス、乱れた生活習慣、冷たい物の飲食、脂もの過多などが考えられています。仕事などのストレスをなるべく引きずらないで、楽しい仲間と楽しい食事会をしていると症状が起こりにくいように思います。
 不規則な食生活、偏食、高脂肪食、特に多量の飲酒などは避けるようにし、規則的な生活習慣、適度な運動、充分な睡眠を心掛けるようにします。漢方薬の半夏寫心湯、乳酸菌製剤、腸管運動調節薬などを用います。

〇潰瘍性大腸炎

 潰瘍性大腸炎は、主として粘膜を侵し、しばしば糜爛(びらん)と潰瘍が出来る原因不明の大腸・直腸の瀰漫(びまん)性の炎症性疾患です。症状は、反復する粘液血性下痢、微熱、食欲不振、倦怠感などの全身症状です。全身症状、排便回数、血便回数、血液検査、大腸内視鏡検査などで診断します。
 軽症から中等度の活動期には、まずサラゾピリンまたはペンタサを処方します。難病指定になっているので、申請すると医療費などが補助されます。

〇クローン病

 小腸、大腸を中心とする消化管に炎症を起こし、糜爛(びらん)や潰瘍を生じる慢性の疾患です。症状は、発熱、腹痛、下痢、下血、体重減少などです。病気の原因は腸管での免疫異常のためではないかとされています。炎症は口腔から肛門までの消化管全体に起こりえますが、最も病変が生じやすいのは小腸と大腸の接合部の回盲部付近です。病変は非連続性で、正常粘膜のなかに縦に走る潰瘍や粘膜の糜爛が散在します。血液検査では炎症反応と、食事を満足に取れないための貧血や低栄養状態の所見が見られます。
 薬物療法として、サラゾピリン、ペンタサ、ステロイド薬などを使用します。食事療法が重要で、重症の時は絶食して中心静脈栄養を続けます。改善してきたらエレンタールという成分栄養剤から開始します。潰瘍などがひどくなった場合はイムランなどの免疫調節薬を使用することがあります。

〇大腸ポリープ

 大腸ポリープは大腸の腸管内腔に突出した隆起性病変を言いますが、殆どが大腸がんに移行するので、内視鏡的にポリープを切除し、その細胞にがんがあるかどうかの組織検査を行います。最初は良性でも殆どのものが数年のうちにがんに変化してしまいます。
中高年になったら便の潜血反応を積極的に受けるようにして下さい。日にちを変えて2回検査をし、1回でも陽性になった場合は大腸鏡検査を受ける必要があります。

〇大腸がん

 大腸がんは年々増加の一途を辿(たど)っています。便の中の有害物に発がん性があるため、大腸がんや大腸ポリープはS状結腸、直腸など大腸の末端部に多く発生します。食生活の欧米化に伴う高脂肪、高動物性蛋白、低繊維食が原因として挙げられますから、チーズ、ピザ、生クリームなどの乳製品を好んで食べない方が良いと思います。特にカビが生えたチーズはカビが生えたお餅と同じように避けた方が無難だと思います。
主な症状は血便ですが、痔疾患を伴う場合は痔からの出血だと思いこんでいて、手遅れになることも多いので注意が必要です。原因不明の貧血、便秘と下痢を繰り返す、腸閉塞症状が時々起こる、などの場合は大腸がんを疑いますから、早めに大腸鏡検査を受ける必要があります。
 早期がんは内視鏡的切除を行いますが、腹腔鏡手術も行われるようになってきました。ある程度進行しているがんは肝臓などに転移が起こっていないかどうかを詳しく調べた上で、手術療法、放射線療法、薬物療法などを考慮します。

☆食事について

1)たん白質、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルなどの栄養のバランスを取る。
2)見た目が美味しそうで、消化の良い調理をし、脂を使い過ぎない。
3)3食規則正しく、会話をしながら食事を楽しむ。
4)腹八分目で、間食、夜食を避ける。
5)高脂肪,過食を避ける。
6)ビタミン,ミネラルを豊富に。
7)緑黄色野菜、淡色野菜、海藻、茸(きのこ)を豊富に。
8)禁煙は当然で、節酒を心がける。
9)刺激物,炭酸飲料,消化しにくい食品などを避ける。
10)ダラダラと時間をかけず、食べた後、すぐに後片付けをしてしまう。