呼吸器疾患

 呼吸器は体に酸素を取り込み、炭酸ガスを排泄する作用をしています。主な疾患である炎症、アレルギー疾患、気管支喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺がんなどの呼吸器疾患について説明をしています。

 

☆花粉症

 免疫反応というのはある物質を身体にとって害を及ぼすもの(抗原)として認識した場合、それに対する武器(抗体)を作り、抗原に接した時には抗体で戦う(抗原抗体反応)ことをいいます。抗原として認識する対象が細菌、ウイルス、がん細胞など実際に害を及ぼすものなら問題はないのですが、植物の花粉などを認識してしまった人が花粉症になってしまうのです。花粉(抗原)が入ってこないように涙や鼻水で洗い流そうとしたり、鼻を閉じたりするので、涙、鼻水、鼻閉などが起こります。血液検査で体内の抗体を測定して何に対する抗体があるのかをチェックします。スギ花粉の飛散は2月から4月まで、ヒノキは5月から6月頃までです。スギやヒノキのほかには種々の樹木やイネ科の植物、草花の花粉が抗原になり得ます。春はヨモギ、カモガヤ、ハルガヤなど、秋はブタクサ、セイダカアワダチソウなどが花粉症の代表選手です。

 有害アレルゲンに接触しないことがアレルギー疾患を抑える一番良い方法ですから、花粉症の場合には花粉が飛ぶ季節には窓を開けない、布団や洗濯物を外に干さないなどの日常生活の注意が必要です。ゴーグル、マスク、帽子、コートなどの花粉症対策グッズも必要に応じて使ってみたら良いと思います。シーズン中のゴルフを避けるとか、彼岸の墓参りの時に帽子、マスク、眼鏡などで重装備するなどの対策が必要です。

 治療には内服薬と外用薬が主に用いられています。抗体が遊離しないように作用する体質改善薬が主体となります。花粉が飛び始めるシーズンの1〜2週間前からアレジオン、アゼプチン、クラリチンなどの抗アレルギー薬の服用を開始し、シーズン終了時まで継続します。シーズン中は必要に応じて、抗アレルギー薬内服の他に、パタノール点眼液、リボスチン点鼻薬などの体質改善外用薬を追加します。副腎皮質ホルモンは即効性があり非常に有効ですが、感染症に弱くなるなどの副作用が心配されますから私は勧めません。

 

☆気管支喘息

 気管支喘息はアレルギー疾患で、多くの場合ダニ、ハウスダストなどの抗原に接した時に症状が悪化します。発作性に気管が狭くなって、息苦しくなる病気です。ヒュー、ヒューと喘鳴(ぜんめい)が聴こえ、咳、痰、息切れ、呼吸困難などが起こります。
診断には血液検査でダニやハウスダストなどの抗体を検査します。また、呼吸機能測定器(スパイログラフィー)を用いた呼吸機能検査で、1秒率(最初の1秒間に息を排出する呼気の量)が肺活量の75%未満であるものと定義されています。健康な人は息をいっぱい吸っていて、一気に吐いた場合は最初の1秒間に75%以上を吐きだすことが出来るのですが、喘息の人は1秒率が75%以下になってしまいます。胸部レントゲン検査では通常は異常を認めません。

 治療はアレルギー反応を起こさせないようにさせる抗アレルギー薬、気管支拡張薬を使います。抗アレルギー薬はアレジオン、アゼプチンなどのように抗体が遊離しないようにさせる薬剤、エバステル、アレグラ、ジルテック、ザイザル、タリオン、クラリチンのようなH1ブロッカー(抗ヒスタミン薬)などが処方されることもあります。体質改善薬は症状が無くても毎日服薬を続けていると喘息発作が予防できます。気管支拡張薬には内服薬、貼り薬、吸入薬などがあります。症状が強い場合は副腎皮質ホルモン薬を用いることもありますが、糖尿病、骨粗鬆症、ホルモン異常などの強い副作用を起こすことがあるため、内服薬も吸入薬もなるべく使わない方が良いと思います。喘息発作を繰り返す場合は、部屋の中にダニが増えている場合もありますから、部屋の掃除、布団の丸洗いなどを試みてください。布団は日に干してもダニは布団の中に逃げてしまうし、死骸や糞はそのまま残るので、布団や毛布は丸洗いするか、買い替えるかしないとダニ対策にはなりません。

 

☆急性気管支炎

 気管支の急性炎症全般を指します。細菌・ウイルス感染や有機性ガスなどの刺激性物質などが原因です。初期の症状は風邪症状で、次第に咳や痰等の急性上気道炎症状になり、発熱、全身倦怠感などが起こってきます。血液検査では白血球が増加し、CRP陽性ですが、胸部X線に異常所見は見られません。

 

☆肺結核

 結核は結核菌があらゆる臓器に感染して障害を与える全身の疾患で、代表的なものは肺結核です。活動性肺結核の患者が咳をした際に排出された結核菌が空気中に漂い、その空気を吸うことで感染します。肺結核は空気感染(飛沫感染)なので、咳が続く期間が長ければ長いほど、そして痰の量が多ければ多いほど感染力が強くなります。

 通常は初期感染の段階で生体の免疫力が結核菌に勝って封じ込めに成功します。しかし、結核菌の一部は死滅せず、増殖もせず、冬眠するような感じで生き続けます。やがて、その人が高齢になったり、種々の疾患に罹って免疫力が低下したりすると結核菌が増殖し始めて発病することがあります。これを、二次結核症と呼びます。成人結核の多くはこの型です。

 

☆慢性閉塞性肺疾患(COPD)

慢性閉塞性肺疾患は、主に長年の喫煙習慣が原因で発症し、呼吸機能が低下していく肺の病気です。以前は慢性気管支炎、肺気腫と別々に呼ばれていましたが、この2つを総称して慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼ぶようになりました。この病気は、煙草などの有害な化学物質を吸い込むことによって、気管支や肺胞などに障害が生じる病気です。息は普通に吸えますが、息を吐くのが難しいのです。症状は、動作時の息切れと慢性的な咳と痰です。重症になってくると、座っていても息切れが続くようになり、日常生活が困難になってしまいます。この病気は重症化すると死亡率の高い病気で、2011年には、日本で1万7000人弱の人が亡くなっており、男性の死亡原因としては第7位でした。

 治療の第一歩は禁煙ですが、気管支拡張薬や呼吸筋の衰えを防ぐ運動療法などを組み合わせて継続することで、重症化することを防いで長い間普通の生活を続けられるようになりました。

慢性閉塞性肺疾患の診断には、スパイログラフィーという器具で検査を行います。これは、どれくらいの量の息をどれくらいの速さで吐き出したかを調べる検査です。ふつう慢性閉塞性肺疾患では肺活量は悪くなりません。しかし、深く吸った状態からできるだけ速く息をはき出したとき、最初の1秒間に吐き出すことができる量(1秒量)が、70%以上なら正常が、70%以下だと、慢性閉塞性肺疾患と判断されます。

 喫煙歴のある人が動いたときに息苦しくなり、胸部X線写真でほかの病気の可能性が否定され、肺機能検査で1秒率が70%以下なら、慢性閉塞性肺疾患と診断されます。

病気が進行してくると指の動脈血の酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターで指の動脈血の酸素飽和度が低下してくるのが分ります。正常は95%以上ですが、90%以下であれば酸素が不足していて呼吸不全になっているため酸素吸入が必要な状態と判断します。現在では、自宅で酸素を吸入する在宅酸素療法が保険の適用を受けられるようになっています。

薬物療法は気管支拡張薬、去痰薬、鎮咳薬、副腎皮質ホルモン薬などを用います。

 

☆肺がん

 肺に発生する悪性腫瘍で、気管・気管支、細気管支あるいは末梢肺のがんです。日本では2009年の統計で、男性49,000名、女性19,000名で、全がん死の20%を占め、男性では全がん死の中で第1位、女性では大腸がん、胃がんに次いで第3位です。肺がんは進行も転移も早いので、診断してからの肺がんの5年生存率は20%弱とかなり低い成績です。肺がんの発生率は喫煙と高い相関があります。紙巻煙草の煙には、ベンゼンなど百以上もの発がん性物質が含まれています。1日の喫煙量が多いほど、また喫煙期間が長いほど肺がんに罹患する可能性は増します。禁煙すれば、肺の傷は癒されて着実に発がんの可能性は減少します。欧米諸国では我が国と違って禁煙者が飛躍的に増加していて、肺がん発症率は減少しつつあります。

 肺がんは転移が早くて悪性度が高い小細胞がんと、比較的悪性度が低い非小細胞がんに分けられています。小細胞肺がんは肺がんの20%程度を占め、喫煙との関連性が大きく、気管、気管支から生ずることが多いがんです。そして、悪性度が高く、急速に増大し、また早いうちから脳などの他臓器に転移しやすいため、発見時にはすでに進行がんである事が多く、予後不良です。非小細胞がんはさらに扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんに分けられます。非小細胞がんのうち扁平上皮がんは、気管や気管支の扁平上皮から発生するがんで喫煙との関係が深く、腺がんは肺の末梢部に多く、肺の腺細胞から発生するがんで、煙草を吸わない女性に多く発生します。大細胞がんは未分化な大型細胞がんで、発育が早く、多くは末梢気道から発生します。

 小細胞がんは進行も転移も早いので、治療は小細胞肺がんと非小細胞肺がんの二つに分けて、外科手術、化学療法、放射線療法を選びます。

 

〇肺がんの早期発見は定期検査が大切

 肺がんの検診では胸部X線検査などが行われますが、実は、心臓、縦隔、横隔膜などと重なっているため1枚の正面撮影のX線では肺全体の半分程度しか見えません。詳しく見るためには、胸部CTスキャン検査や喀痰の細胞検査(がん細胞の有無を調べる)を検査します。肺がんの疑いが強くなると気管支鏡検査が必要になる場合があります。気管支鏡は気管支に内視鏡を入れて腫瘍の場所や形を確認し、組織を採取してきて細胞を検査します。肺がんは早期発見が重要ですから、特に喫煙者または禁煙して5年以内の人は、咳や痰の症状だけでも上記の検診を受けることが必要です。

〇肺がん予防

 先ず、禁煙をすることです。禁煙してから5年以上経つと煙草による肺がんの発生頻度が低下するとされています。喫煙を続けている医師の中には、肺がんと喫煙の相関関係を否定する人もいますし、紙巻きたばこのタールが悪いのだからと言って葉巻にしている人もいます。しかし、禁煙が原則であることは論を待ちません。日本では成人男子の喫煙率は昭和41年の83.7%をピークにほぼ一貫して減少を続け、平成24年では32.7%となっています。